「企業スポーツからクラブチームへ」という動きは、企業がスポーツチームを抱えきれない状況になって、
ようやくクラブ化へと動き出すのが昨今の流れである。
企業が宣伝の為にチームを抱える時代は既に去っていて、この何年かはどうやってチームを
クラブ制へ移行するか?ということが存続へのテーマとなりつつある。
それが、今後アマチュアスポーツを支えるための指針ともなる。
ただ、チームが潰れるスピードがあまりにも早いために、クラブ化への受皿が全くできていないという現状も事実。
そんな中、会社の業績が悪くはないがチームをクラブ化した企業が登場した。
広島県に本拠地を置く、総合小売チェーン店のイズミである。
蛇足になるが大阪に本拠地を置くイズミヤは、似ているが全く違う会社であるのでお間違いなく。
昨年の7月にイズミは、所有する女子ハンドボール部を「広島メイプルレッズ」というクラブチームに
移行させることを発表した。
会社側は今回のチーム移行を「今後はクラブチームがスポーツの主体となっていくから。」と言い切った。
これによって、イズミを含む協賛企業と行政そしてサポーターがチームを支える大きな柱となった。
このチーム移行が示すのは「潰れてからでは遅い」ということではないか?
イズミのように早めに手を打ってくれる会社なら準備のしようもあるが、同じ女子ハンドボールの栃木日立は
リーグ戦開幕直前に、日光アイスバックスの前身である古河電工はリーグ戦中に休部(どちらも事実上の廃部)
を通告されている。これでは準備の時間があまりにも少なすぎるし、プレーする選手たちのモチベーションも
下がるのは当然だ。
企業はこれまでチームを宣伝媒体として奉仕させてきたのだから、次の受皿を作るくらいはしてやるべきだ。
じゃないと、選手たちも浮かばれないと思う。
話を広島に戻す。
広島には、なんといっても市民クラブチームの元祖とも言えるプロ野球の「広島東洋カープ」がある。
日本で唯一親会社を持たないプロ野球チームである。
市民は「おらが街のチーム」としてカープを支えてきた。
カープは参加していないが、広島では競技を超えたチームの連携が始まっている。
先に挙げたメイプルレッズに、男子ハンドボールの湧永製薬、Vリーグ男子のJTサンダース、Jリーグの
サンフレッチェ女子バスケットボールの広島銀行ブルーフレイムズ、女子バドミントンの広島ガスの6チームが集まった
スポーツ交流団体「広島トップスポーツネットワーク」(略称:トップス広島)を結成した。
競技の枠を越えた相互交流を目指すこの制度に行政も応えて、広島県は「トップアスリート活用事業」そして、
広島市は「Doスポーツ指導者招聘事業」をスタートさせた。
これは、小中学校へトップスに参加している競技の選手やスタッフを派遣して指導を行うもの。
小学校低学年からトップリーグに属する選手たちの高いパフォーマンスに接していれば、おのずとスキルアップが
のぞめる。レベルの底上げは「オール広島・オールスポーツ」を目指すトップス広島の理念でもある。
広島はもともとスポーツ王国であったが、最近はその力も弱まってきている。
カープもサンフレッチェも優勝から遠ざかって久しい。
唯一元気なのはメイプルレッズである。
女子ハンドボールリーグで日本総合選手権、実業団選手権、日本リーグ制覇と3冠を達成した。
イズミの所有する女子ハンドボール部から、クラブに移行した初年度に3冠である。
クラブ化に伴ってそれまで競技優先だった生活が社業優先となり、試合中の怪我も労災では
なくなった。
選手たちは、イズミと協賛企業で仕事をしながら競技を続けている。
クラブ化で失ったものもあるが、得るものも多いのだろう。
競技横断的な組織であるトップス広島も問題がないわけではないが、それは時間をかけて解決していくことで
ここで、是非を問うまい。
トップスの基本理念がJリーグの掲げる「百年構想」にあるので、カープには参加しづらい面もあるのだろうが、
広島で市民チームとしてやってきた50年のノウハウを是非ともフィードバックして欲しいと思う。
中国地方で唯一の政令指定都市である広島。
ここから発信する新世紀型スポーツチームのあり方を、他の行政が受け継いでいくことで企業依存型だった
スポーツが、市民および行政から発信するスポーツ文化へと転換できるのではないか?
広島市はこのトップス事業以外にも、カープ、サンフレッチェ、広島交響楽団を「3大プロ」という位置付けにして
選手や演奏者の派遣事業を始めた。
スポーツはスポーツ、音楽は音楽というカテゴリーではなく、色々な分野を「文化事業」として融和させる時代
になってきたのである。

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「追記〜2003年の視点から〜」

オールスポーツの担い手として発進したトップス広島だが、昨年秋にブルーフレイムズが廃部を発表。
トップスとして、何の救済措置もとることが出来なかった。
現在はまだ競技間交流組織の色合いが強いトップスだが、今後は財源の確保や組織の強化等が
求められていく。
なによりも、トップス広島が県内での知名度や存在感を高めて行くことも大事だろう。
先に挙げた、ブルーフレイムスの廃部にサンフレッチェのJ2降格と暗い話題が続く中で、メイプル・レッズは
気を吐いている。
今年も日本リーグを制して優勝を勝ち取った。
「百年構想」というだけあって成功までには長い道のりだが、途中であきらめないことが一番大事だと思う。