タイトル:東京アンダーワールド
著者名:ロバート・ホワイティング/松井みどり訳
出版社:角川書店
価格:¥838(税別)
ISBN:4−04−247103−X
◆著者のこと◆
ロバート・ホワイティングという作家は「菊とバット」(文春文庫/松井みどり訳)
「和をもって日本となす」(角川文庫/玉木正之訳)等
ベースボールと野球の違いを通じて日米間の文化を比較する著書を多数表してきた。
かつて俺は「海の向こうのベースボール」という表現が大嫌いだった。
それは、野球もベースボールも同じだと思っていたからである。
しかし「菊とバット」を読んでその考えは、見事に打ち砕かれた。
明らかに、野球とベースボールは違ったのである。
それも「どうだ、メジャーは凄いだろう。」という大上段に構えた書きかたではなく、
読む側が納得できるような事例を引いて、懇々と説明してあるのだ。
納得するしかないではないか。
これによって、俺の盲は完全に開かれた。
その作者が、今度は終戦直後の日本を書くという。
なにせロバート・ホワイティングである。
独特の視点で書くはずだ。
俺は単純にそう思った。
そして出来上がったのがこの本である
◆東京のマフィア・ボス◆
この本の主人公は「ニコラ・ザペッティ」という、イタリア系アメリカ人。
ニューヨーク出身。
終戦後アメリカによる日本の占領時に軍曹として来日。
日本にビジネスの可能性を見出し事業を始める。
米軍の支給品を横流しさせたり、盗品を売ったりでそれなりに利を得た
ザペッティは、なんとプロレスデビューまでしてしまう。
ある時は警察に逮捕され、またある時は強制退去になったりしても復活して生き抜く
様に、ある種の凄みと強さを感じる。
裏の世界でも表の世界でも力を発揮するザペッティの元にはいろいろな人種の
人間たちが集まるようになる。
そんな連中が毎晩たむろしていたのが、日本で初めてピザを紹介した店「ニコラス」だ。
常々、本場の味に飢えていたザペッティは自分の手で祖国の味を再現しようと試みた。
それが当たったのである。
しかも、この店のアイデアは留置所に拘留中に生まれたのだ。
なんというスケール!
人が集まる所には、自然と情報が集まる。
それは、今も昔もかわらない。
その利を生かして六本木に君臨するザペッティはいつしかこう呼ばれるようになった。
「東京のマフィア・ボス」と。
◆戦後のヒーローといえば◆
昭和30年代TVの本格放送開始の波に乗って、一躍ヒーローとなった男がいる。
いうまでもない日本プロレスの開祖、力道山光浩である。
大相撲二所の関部屋の力士だったが、肺ジストマを患って引退。
自らが包丁で髷を切り落とした、というエピソードは余りにも有名だ。
その後プロレスに転向して、時代の申し子になっていく。
木村政彦とタッグを組んで行ったVSシャープ兄弟戦は敗戦による
外国人コンプレックスを抱える多くの日本人に溜飲を下げさせた。
しかし、力道山はその出生に大きな矛盾を抱えていた。
今でこそ力道山が、現在の朝鮮民主主義人民共和国の出身だということは
広く知られている事実だが、当時はその出生を隠さなければならない状況だった。
「空手チョップで、一撃のもとに白人を倒す日本人」というイメージを損なうわけには
いかなかったのである。
そうしたプレッシャーに日本プロレスの運営やその他の事業を多く抱える余り、力道山は
精神のバランスを崩していく。(興奮剤、睡眠薬の大量摂取もあったが)
そして1963年12月8日、力道山は凶刃に倒れることになる。
◆戦後ニッポン◆
作者が直接ニコラ・ザペッティに取材したメモをベースに、戦後の時事を織り交ぜた
この本は、C.I.A.の暗躍やGHQの乱れ振りなどにも触れているがここでは割愛した。
戦後日本の表社会や裏社会の事を書いた、本はそこここに見られるし力道山の関連書籍
だって数年周期で出版されている。
しかし、それらとは違った本だなというのが読後感である。
勝手な推測をすれば、作者が俺程度の人間の視線まで降りてきてくれている
ということかな?と思う。
元々、無学な俺が初めて知ったのは「ヤクザ」という言葉が戦後に生まれたということ。
それと、俺の生活からは外すことができない東京スポーツ社設立の背景である。
児玉誉士夫が東京タイムズ社を買収「東京スポーツ社」とした。
というのである。
児玉誉士夫なんて、ロッキード事件のオッサン程度の知識しかない俺には、
驚愕の事実だった。
当時のプロレス中心路線が今に引き継がれているとすれば、東スポ紙は50年来の
伝統を守っているのだ。凄い!!!
さすが、ロバート・ホワイティングである。
最近、この本の続編として「東京アウトサイダーズ」が出版された。
俺としては早急なる文庫化を望みたい。